からだを動かすことは健康づくりに大きな役割を持っている。今回は、健康日本21の中の課題の一つである、「身体活動・運動」分野の基本的な考え方を紹介する 。
身体活動と健康
からだをよく動かす人や、運動をよく行っている人は、死亡率、虚血性心疾患、高血圧、糖尿病、肥満、骨粗しょう症、結腸がんなどに罹ったり死亡が少ないなどの関連が認められており、心の健康とも関連していることが分かっている。高齢者でも、歩行などの日常生活における活動が、寝たきりの減少や寿命の延長に効果のあることが示されている。このような効果は、「身体活動の強さ」と「行った時間」を掛け合わせた「身体活動量」が多いほど有効であるが、長期的にみると十分程度の歩行を1日に数回行う程度でも一定の効果が得られることが分かっている。したがって、スポーツや体操など特別に行う活動だけでなく、通勤・通学、家事、勤労など日常生活のからだの動き全体が重視されている。
身体活動量を正確に測定することが難しいため不明な点が多いものの、食料の消費動向や厚生省が実施している国民栄養調査などから、平均的な食事からのエネルギー摂取量がゆるやかに減少しつつあることが分かっており、一方で男性を中心に肥満者が増加していることをみると、身体活動量が平均的に減少傾向にある(つまり運動不足状態)のではないかと考えられている。
一方、運動を実践する人の数は近年増え続けており、フィットネスクラブの会員数も増加傾向にある。関心は高まりつつあるといえる。
身体活動・運動は、健康を考えるきっかけにもなっており、身体活動を活発にすることは健康づくり全体を進めることにつながると予想される。
健康日本21では、国民の身体活動や運動についての意識や態度が向上し、身体活動や運動の実施につながることを目指している。
成人における身体活動
●からだを動かす心掛け
身体活動量を増やすためには、状況に応じて、通勤・買い物で歩くこと、階段を上がること、運動スポーツを行うことなど身体を動かすことを日常生活に取り入れることが有効である。平成8年保健福祉動向調査によると「日ごろから日常生活の中で、健康の維持・増進のために意識的にからだを動かすなどの運動をしている人」が、男性52.6%、女性52.8%となっており、これは、運動の実践に加えて、できるだけ参加するといった意識を含んでいると考えられる。からだを動かすことの実践は、その前段階として「できるだけ心掛ける」という意識の変化があると考えられる。そのため、このような意識をつくっていくことが重要である。
●まず歩行から
からだを動かすことのうち、最も身近に取り組むことができるのは、歩行である。これは、ウォーキングのような特別に時間をとって行う活動の他、通勤や買い物などの活動も含まれる。また、わが国では、歩数計を利用している人が20歳以上の16.7%に上り、身近なものとなっていることを考えると、「1日当たり1万歩」などの目標を定めて、取り組むことも有効な方法である。わが国では、1日当たり平均歩数は、男性8,202歩、女性7,282歩(平成10年国民栄養調査〔厚生省〕)となっている。
●運動習慣を身につける
運動・スポーツは余暇の時間に行う活動であり、爽快感や楽しさを求めて行われる。同時に、疾病を予防し、活動的な生活を送る基礎となる体力を増加させるものでもあり、積極的な行動として勧められる。「週2回以上、1回30分以上の運動を、1年以上継続している人」という定義で調べると、男性28.6%、女性24.6%が運動に取り組んでいる(平成10年国民栄養調査〔厚生省〕)。男性では30歳代が20.6%、女性では20歳代が16.7%と最も低く、60歳代までは年齢が上昇するに従って取り組んでいる人が増える傾向にある。運動の強さとしては、中程度、自覚的には「息が少し弾む程度」が勧められる。それまで運動経験のない人が急に運動を始めようとすると心臓事故や、整形外科的障害を起こす可能性があるので、それぞれが自分の健康状態をよく把握した上で取り組むことが重要である。
また、女性は、運動の実践や一日当たりの歩数などすべての面で男性よりも少ない傾向にある。より一層働きかける必要がある課題となっている。
児童・生徒における課題
児童・生徒における身体活動は心身の健全な発育のために重要である。特に、健康のためのよい習慣を定着させるといった面からも考慮が必要である。児童・生徒では、運動をする者と、しない者が二極分化していることや、体力・運動能力調査によって低下傾向があることが示されているなどの課題がある。身体活動量が低下する原因としては、外遊びの減少やテレビ、テレビゲームなど非活動的に過ごす時間の増加が指摘されている。テレビ(テレビゲームを含む)の視聴時間が1日3時間以上の児童・生徒の割合は、10歳男子38.7%、女子38.6%、16歳男子25.2%、女子24.2%に上っている。テレビの視聴時間が長いほど、体力の低い傾向が示されている。米国の小学生を対象にテレビ時間を制限する教育を行った調査では、テレビ視聴時間の減少と、肥満の予防・改善効果があったことが示されている。日本でも、非活動的な時間の減少を意識することが重要となっているといえる。それぞれの児童・生徒が「外遊びや運動・スポーツを行う時間を増やす」ことや、「テレビを見たり、テレビゲームをするなどの非活動的時間を制限する」といったことに取り組むことが有効であると考えられる。
高齢者の課題
現役の職業生活を退いた高齢者は、社会的役割の減少をきっかけとして不活発な生活におちいる危険が指摘されている。このような状況は、身体的だけでなく、精神的、社会的な生活機能が低下する大きな要因となる。高齢者が身体的活動量を確保する身近な方法としては、まず、日常生活のあらゆる機会を通じて外出することや、ボランティア、サークルなどの地域活動を積極的に実施することである。60歳以上で「自分から積極的に外出する方である」とする人は男性59.8%、女性59.4%(平成11年高齢者の日常生活に関する意識調査〔総務庁〕)であり、さらに増加することが望まれる。
これらの活動に加え、積極的な健康づくり活動として、体操、ウオーキング、軽スポーツなどの運動を定期的に実施することが有効と考えられる。高齢者の身体的な自立能力は下肢機能から低下するので、歩行、下肢・体幹部のストレッチング、筋力トレーニングも有効である。
一人ひとりの方には、年齢や能力に応じて、「仕事、地域活動やボランティア活動、知的・文化的学習活動」など、「ストレッチや体操を1日10分程度、散歩やウオーキングを1日20分程度、下肢及び体幹部の筋力トレーニングを1週間に2回程度」などの中から選択して取り組むことがお勧めできる。
活動的な日常生活を送るためには、すべての世代が気軽に取り組めるように、運動施設のあり方、高齢者の外出が容易になるまちづくり、歩道、自転車道、階段などの環境づくり、職場における取り組みなど多くの環境としてとらえることが重要になる。関連する皆様にもご配慮をお願いしたい。
これまで述べたとおり、身体活動はからだを動かすことは、健康を考えるきっかけとして大きな意味を持っており、また、さまざまな程度で実施できる。わずかずつであっても、取り組んでいただくことをお勧めする。
|