近年の急速な高齢化による要介護者や骨粗鬆症患者の増加、小児の肥満症といった生活習慣病の増加など社会情勢の変化に伴って、中高年の生活習慣病予防だけでなく、高齢者の生活の質(QOL)の向上のための身体機能の維持・向上や女性の骨粗鬆症予防、さらには成長期における健康づくりなども視野に入れた「生涯を通じた健康づくりのための身体活動のあり方」を検討する必要性が高まってきた。このため、厚生省は平成8年12月、医学・運動生理学、さらには現場の運動指導者などの専門家からなる検討会を発足させ、検討してきた。その報告がまとまり、その中で具体的な「健康づくりのための年齢・対象別身体活動指針」が示された。
身体活動に日常生活活動も含む
報告書は、基本的な考え方として、「身体活動」を「骨格筋の活動によって安静時よりも多くのエネルギー消費を伴う活動」と考え、日常生活活動、趣味・レジャー活動、運動・スポーツに含まれるすべての身体活動を対象とした。このように、生涯を通じた健康づくりのための身体活動に、運動・スポーツに限らず、日常生活活動、趣味・レジャー活動を含む幅広い身体の活動を含めることで、いずれの性・年代においても容易に楽しく継続的に取り組むことができ、国民の健康づくりに広く寄与することが期待される、としている。その目的は、健康の保持・増進、疾病の予防・改善、ストレスの軽減、小児の発育の促進、高齢者の自立の維持・向上、生きがい対策、更年期症状の軽減など、対象となる性・年齢による種々のものがあり、それに応じて望ましい身体活動の内容も異なる。報告書の「健康づくりのための年齢・対象別身体活動指針」(表)はこれらの点を考慮し、年齢を「成長期」「青・壮年期」「高齢期」「女性」の4区分とした。
有効な健康づくりのための身体活動
さまざまな疫学的研究、生理学的研究などにより、健康づくりに対する身体活動の有効性が明らかになってきている。欧米では、活動的なライフスタイルを有する者ほど、虚血性心疾患発症率ならびに全死因による死亡率が低く、有酸素運動能力が高い者ほど、同じ程度の危険因子を有していても、死亡率が低いことが示されている。また、身体活動は骨格筋を活動させることにより、筋機能・心機能・呼吸機能などを向上させ、結果として、全身持久力や筋力などを高めることが知られている。
このような効果は、身体活動の種類(有酸素性、無酸素性)・強度などにより異なり、場合によっては身体活動自体が危険を引き起こすこともある。したがって、身体活動の目的を明確にし、安全性を十分に留意した方法で実施することが重要である。
身体活動能力に対する効果は、どのような軽度な身体活動(家事、散歩などの日常生活活動)でも、それに伴ってエネルギーの消費量が増加し、身体活動能力の維持などの効果があり、身体を動かすことそれ自体が、その強度・時間にかかわらず、健康づくりに必要不可欠である。
しかし、身体活動の種類、強度、継続時間などの適切な組み合せにより、最大酸素摂取量の増加、筋力の増強などが効率よく促され、身体活動能力が改善され、QOLの向上がもたらされる。
さらに、関節の可動域を増大させるなどの目的を持った身体活動は、身体各部の柔軟性の保持に有効である。また、さまざまな身体活動の定期的な実践により、平衡性、協調性、敏捷性が保持・向上され、転倒の防止や衝突回避などにも有効である。高齢期にいたっても、定期的な身体活動は動作の機敏性の低下を遅らせる。
生活習慣病に効果
生活習慣病などに対する効果は、低〜中等度の強さの有酸素運動を継続することにで、軽症の本態性高血圧症、インスリン非依存型糖尿病、高脂血症、肥満症などの生活習慣病の予防・改善が期待できる。また、虚血性心疾患患者に対しては、身体活動能力の増大、冠動脈の危険因子の改善など健常者と同様の効果が認められており、身体活動を行わない者よりも予後が良好になる。
また、身体活動によって、成長期に骨密度が増加し、それ以降の年齢では骨密度の低下が抑制され、骨粗鬆症の予防が期待される。さらに、筋力強化やストレッチングにより腰痛症や膝関節症などの予防も期待できる。
身体活動に心理的効果も
身体活動の心理的効果としては、ストレスの解消やストレス耐性の強化にとどまらず、抗不安作用、抗うつ作用が知られている。これらの心理的効果は、心の健康づくりやストレスが原因となる疾患の予防・治療、精神科領域疾患の治療にも応用されている。
現代社会、特に都市部においては、人間関係が希薄になってきているが、身体活動習慣が幅広い人々の間に浸透することにより、社会交流の場が広がり、仕事や縦割りの人間関係にとどまらない、新しい人間関係の構築が期待できる。この新しい人間関係が、成長期における社会性の獲得、青・壮年期におけるストレスの解消などに好影響を与えることが期待できる。また、高齢者の孤独解消や社会参加、社会貢献を促進し、QOLの向上に寄与するものと思われる。さらに、継続的な身体活動は、生活習慣病をはじめとする慢性疾患の予防・改善や高齢者の自立の維持・向上につながり、医療費や介護費用などの低減効果も期待される。
健康づくりのための身体活動は「安全」「手軽」なもの
従来の「健康づくりのための運動」では、主に生活習慣病の予防・改善を目的として、有酸素運動が進められてきたが、近年高齢者をはじめ、各年齢層の人々がある程度以上の筋力を維持することが、日常生活活動を活発にし、QOLを向上させるために重要であることが認識されるようになった。
「健康づくりのための身体活動」とは、健康づくりに資する身体活動をすべて含み、「通常より身体を動かす量と強さを増やすこと」が基本だが、加えて「安全であること」「手軽であり継続できること」などの特徴を備えているものでなければならない。
健康づくりのための身体活動の推進方策
性・年代別身体活動指針が国民に広く普及し、その健康づくりに資するためには、個々人における身体活動の意義の十分な理解と、その実践を支援するための社会的な推進体制が整備されることが不可欠。その推進には、多くの関係省庁がそれぞれ行っている施策の連携をとるべきであり、厚生省は他省庁と協議を図りながら、@啓発普及A健康づくりのための身体活動を行えるような機会の提供B場の整備C指導者の確保と活用D研究・評価の推進ーの取り組みを進めることが必要である、としている。 |