糖尿病の食事と宅配食品を考える
5/5/2008

Q 「糖尿病は国民病」という話をよく耳にします。これはどうしてなのでしょうか。

 糖尿病は、膵臓でつくられるインスリンの作用不足によって引き起こされる代謝疾患です。原因はさまざまですが、高血糖が特徴的な症状です。糖尿病という病名も、尿に糖が出ることに由来し、高血糖の結果なのです。
 代謝疾患としての糖尿病による異常は、糖代謝を中心に、脂質、たんぱく質の代謝にも及びます。さらに、著しい高血糖は糖尿病昏睡をも招きます。
 一方、多くの糖尿病では慢性的な高血糖状態が、血管や神経などを中心に、さまざまな合併症を招きます。
 現在、わが国には糖尿病の治療が必要な人がおよそ600万人いると推定されています。いまや糖尿病の予防と治療は、国民の健康にかかわる重要課題であり、糖尿病は国民病と考えられるようになっています。

Q 糖尿病は食事療法が欠かせないと言われています。そのポイントを教えてください。

 糖尿病を治療していくうえでまず必要なことは、糖尿病教育の徹底です。そしてインスリン依存型の場合にはインスリン注射療法を的確に行うこと、インスリン非依存型では基本治療(食事・運動)を優先し、十分なコントロールが得られないときは、薬物療法(経口糖尿病用剤の服用、あるいはインスリン注射)を行うことです。
 食事療法のポイントは、摂取エネルギーの適正化と栄養素のバランスです。また、運動は「いつでも、どこでも、一人でも」を心掛け、一例として歩行(40分)と体操、筋力トレーニング(各10分)を組み合わせます。これらによって、適正体重の維持、血糖値のコントロール、血圧や血清脂質の正常化をはかります。
 ところで、食事療法は画一的な食パターンであってはいけません。食生活のあり方は一つの文化であり、本来きわめて個性的なものです。個性を重んじて、なおかつそれが人間の健康という観点から、量・質ともに適正であることが求められます。
 ところが、飽食の時代となり、欧米化した食パターン、不規則な食生活は肥満を招きやすく、現代社会は糖尿病を発症させやすい環境となっています。糖尿病の食事療法の目指すところは、このような食パターンの是正にあるのです。

Q 糖尿病の治療食の宅配は、いつから始まったのですか。

 昭和50年、(財)日本医療食協会が糖尿病用食品として冷凍食を開発し、販売を始めました。これは、昭和40年代後半から急増してきた糖尿病患者の医療食としての糖尿病食を普及させ、糖尿病治療の向上を図ろうとしたものです。主菜と副菜を中心に調整された医療食は全て冷凍保存され、これを百貨店などで買う店頭購入と、保冷庫に入れて注文を受けた各家庭に配布するという2つの方式により販売されました。
 当時、食品の冷凍技術はすでに完備されていましたが、各家庭における冷凍庫や、解凍に用いる電子レンジなどの普及はまだそれほど進んでおらず、利用する側の冷凍食への対応は十分ではありませんでした。
 その結果、せっかく調整された冷凍食の評判は芳しくなく、広く受け入れられるところまでには至りませんでした。
 冷凍医療食に関して指摘された点は、糖尿病の食事療法を実践するうえで、出来上がり食品の給付のみでは、献立づくりや調理を通じて学ぶという面が少ないことと、味付けの画一化が個々の糖尿病患者の味覚を十分に満足させられなかったこと、そして調理品目が限られていたことです。
 昭和59年、全国の糖尿病患者数が急増するなか、再び糖尿病の基本治療である食事療法へのアプローチがなされました。冷凍医療食で経験したマイナス面を点検して、献立から調理へというプロセスを重視したものです。出来上がり食品の宅配ではなく、十分に吟味された献立にそった食材の宅配によって、適切な糖尿病用の治療食が各家庭で調理可能なように工夫されました。
Q 食事療法を行ううえで、宅配食品はどのようなメリットがあるのでしょうか。

 糖尿病と診断されたときにまず実践しなければならないのは、食事療法と運動療法、それに生活習慣の改善です。このうち食事療法に関しては通常、医師から1日の摂取エネルギー量が指示されます。その範囲内で食品交換表などの例にならって、食品配分と献立づくりがなされます。
 食事療法を徹底させるためには、管理栄養士などの指導が必要ですが、実際の医療現場では食事指導は必ずしも容易ではありません。その点、糖尿病用宅配食品は、食事療法の困難さを解消する一助となります。患者が食事療法を始めるにあたり、実際的な知識と経験の習得に役立つからです。
 食事療法を学習するうえで、糖尿病を専門とする医療機関や地域の保健所による指導講習会などへの参加は大変効果的です。しかし、だれもがそうした機会を簡単に得られるものではありません。
 現在、糖尿病用食品の宅配を展開しているメーカーでは、コンピュータを駆使したメニューづくりを管理栄養士の指導のもとで行っているところもあり、必要な食材を調理できる形態に整えて保冷箱にセットし、各契約家庭に直接配達しています。このような状況のなかで、宅配食品による糖尿病者用の治療食の学習は、糖尿病患者を持つ家庭での対応として、選択されてしかるべき方法ではないでしょうか。
 宅配システムについて説明しましょう。
 入会すると、毎日の食材と2週間分ずつのメニューブックを受け取ります。そして、宅配された食材を用いて、患者あるいは家族がメニューブックを見ながら調理するのです。食材は毎日、午前8時から午後4時ごろまでに、当日の夕食と翌日の朝食・昼食分が宅配されます。メニューは3ヶ月で200種類が用意されています。
 実際に利用している患者を調査したところ、「便利」「少し便利」と回答した人が8割に達しました。その理由について、献立づくりの手間が省ける(59%)、食品の無駄がない(21%)、家族の献立のヒントになる(16%)、買い物の手間が省ける(4%)と、なかなか好評です。
 宅配された食材料を使った調理についての感想も、上々の評価でした。宅配システムによって、食品の目安量がわかるようになるばかりでなく、糖尿病治療のための食事療法自体の理解も深まるという教育的効果も期待できます。
 宅配食は、全ての食材がメニューブックに記されており、これに従って調理することで、指示エネルギー量による食事が可能となります。ですから、食事療法の実際をなかなかのみ込めない人でも、指示されたとおりにつくることで、指示エネルギー量の食事を体験学習することができます。
 さらにはこれを定期的に利用することによって、食事療法の乱れのチェックができるなど、長期にわたる食事療法の適正化が維持できるのです。

Q 宅配食品には、今後どのようなことが求められるのでしょうか。問題点を教えてください。

 厚生省食事療法用宅配食品適正化検討会が、平成5年2月から3月にかけて全国の18業者にアンケート調査したところ、宅配食品の価格は、食材のみの場合で3食ではほとんどが1,000〜1,499円、二食では1,000円未満でした。また、調理済み食品の場合、3食で1,000台〜3,000円以上、2食で1,000未満〜2,000円台となっています。
 3食を食材料による宅配で摂取した場合の直接経費は、平均1,200円。同じものを食料品店で購入すれば、価格は30〜40%減です。この価格差に見合う利用価値が得られるかどうかが重要になります。
 実際に、食事療法を習得するには、教育入院をする、地域(保健所など)で行われる食事講習会に参加するなどをして学ばねばなりません。その時間的負担や費用の問題を考えて、宅配食品を上手に利用したいものです。
 ところで、全ての糖尿病患者が、糖尿病を専門とする医療機関で治療を受けられるわけではありません。一般の医療機関での食事療法への対応も、この病気の持っている性質上、十分に配慮される必要があります。
 しかし、これを直接指導する管理栄養士などが置かれていないところもあり、患者自身とその家族の取り組みに大きく依存しているのが現状です。
 このような状況において、適切な食事療法の実践が糖尿病用宅配食品の利用によって可能な今日、各医療機関の、宅配システムに対する理解と患者への紹介、そして治療効果の確認、さらには業者との緊密な連携など、さまざまな協力態勢が求められています。
 糖尿病患者に対して、医療側は食事療法の正しい指導を行い、かつ実践させていくための努力が必要です。
 しかし、量的にも質的にもこれを適正に行わせることはかなりの努力を要するため、その実践は容易だとはいえません。
 糖尿病を専門とする医療機関などでは、いわゆる教育入院を行うなどして糖尿病者用の治療食を実体験させ、これを在宅で応用するように指導しています。しかし、食事療法を必要とする糖尿病患者が数百万人にも及ぶ今日、多くの医療機関においては、十分な対応は難しい状況にあります。
 このような現況を踏まえると、正しい食事療法を導入するための手段として、食材の提供を主とする糖尿病用宅配食品の存在意義はきわめて大きいといえるでしょう。
 これが、患者の良好な血糖コントロールに真に役立つためには、提供する業者と、活用を媒介する各医療機関との協力、そしてこれを利用する個々の糖尿病患者、ならびにその家族を含めた家庭での適切な対応が望まれます。

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