欧米化が進む食生活となかなか減らない喫煙率などを背景に、「心臓病」はいまや「がん」に次いで日本人の死因の2番目です。しかしアメリカなどでは、食生活の改善と運動を奨励する大キャンペーンを実施した結果、虚血性心疾患による死亡者を半分以下に減らすことができました。カテーテル治療も年々進歩し、予防目的にも使えるのでないかとの期待も出ています。虚血性心疾患の診断と治療については山口徹・虎の門病院院長に、予防については上島弘嗣・滋賀医科大学医学部福祉保健医学講座教授に聞きました。
虚血性心疾患
心臓に酸素や栄養を供給している冠状動脈が狭くなったり詰まったりすると、胸が締め付けられるように痛くなり、その先の組織が壊死します。このような病気を虚血性心疾患といいます。狭心症や心筋梗塞がその代表です。
狭心症の特徴は、みぞおちから前胸部にかけての圧迫痛で、血流が回復すると痛みは消えます。痛みは軽いものから意識を失ってしまうような強いものまでさまざまで、2、3分から10数分持続します。発作が起きるきっかけとしては、階段を上る、重い荷物を持つ、排便、過労、飲酒、喫煙、起床直後、入浴、精神的興奮などがあります。発作が起きたら楽な姿勢をとり、ニトログリセリンなどの応急薬があればそれを服用します。カルシウム拮抗剤や受容体遮断薬も使われます。
労作中の発作だったのに安静時にも発作が起こるようになった、発作の頻度が増えた、時間が長くなった、ニトログリセリンが効かなくなった、などという状態は不安定狭心症といわれ、心筋梗塞が起きやすい状態です。このようなときは迷わず医者に行くことが大切です。また新しく起こった狭心症も、起こりはじめは心筋梗塞になりやすいので医師へ行くことが必要です。
一刻を争う急性心筋梗塞
急性心筋梗塞は、冠動脈の狭い部分が血栓により閉塞して血流が途絶え、心筋の一部が壊死してしまう病気で、4人に1人が死ぬといわれています。発作は少なくとも30分以上は続きます。患者をできるだけ早く専門病院に運び込むことが必要です。
発病の前兆として、数日あるいは数週間前から新たに狭心症の発作が起こってきたなどということが多いですが、前兆がなくいきなり心筋梗塞となるケースもあります。
救急車が来るまでは心臓マッサージや人工呼吸を行い、病院では前胸部に電極を押しつけて直流電流を流す徐細動を行い、不整脈を治します。入院直後は絶対安静で、酸素吸入や点滴を行い、心電図を監視します。このような治療を効率よく受けられる施設がCCU(冠疾患集中治療室)です。最も重要な治療は冠動脈の閉塞部を治療により再開通させ、血流を再開させることです。後で述べる再灌流療法で、薬による方法とカテーテルによる方法があります。
日進月歩のカテーテル治療
治療法としては、狭くなった冠動脈を風船(バルーン)などで押し広げるPCI(冠動脈インターベンション)がよく行われます。バルーンで広げただけでは約40%で再度、冠動脈が狭窄してしまうため、金属製の円筒(ステント)を病巣部に留置することがよく行われるようになり、再狭窄は20%くらいに低下しました。
山口院長は「血管が太くて病変が短いケースでは再狭窄は5%くらいですが、逆に血管が細くて病変が長い場合はステントを入れてもあまり効果がないので、バルーンで血管を拡張するだけになります。それでも約60%のケースでステントを使います」と、ステントが主流だと説明します。
急性心筋梗塞でも血流再開にバルーンやステントによるPCIが使われています。PCIにはカテーテル検査室という設備と経験のある専門医が必要です。血栓溶解薬のtPAはどこでも静脈注射できますので、少し効果は落ちますが多くの病院で行われています。
山口院長は「最近では、少しでも早い再開通を目指して、入院時に直ちにtPAを投与し、用意が出来たらカテーテル治療をするという併用療法も行われるようになりました。また、免疫抑制剤のラパマイシンや抗がん剤のタキソールをステントにコーティングした、薬剤溶出性ステントが欧米で開発され、治験段階では再狭窄ゼロの結果を得ています。これで冠動脈が急に閉塞しそうな部位を特定する方法が開発できれば、ステントを予防的に利用することも考えられます」と、カテーテル治療の最新事情を紹介します。
増えるバイパス手術
病変が冠動脈のあちこちにあるなどカテーテル治療が難しい場合は、バイパス手術を行います。患者の下肢の静脈や内胸動脈を冠動脈の狭窄部分の先へつなぐ手術です。1997年の調査によると、日本でのPCIは11万件、バイパス手術は17,000件で、急性心筋梗塞を除くとその比率は約5倍です。一方、米国ではその比が2倍程度で、バイパス手術が日本より活発に行われています。山口院長は「バイパス手術では社会復帰に2カ月くらいかかりますが、カテーテル治療なら3〜5日で済みます。じっくり治療して職場に復帰する米国人と一日も早く職場復帰したい日本人という、国民性や社会的背景の違いでしょうか」と話しています。

生活習慣病としての予防
虚血性心疾患の死亡者は依然として増加傾向にあります。また、虚血性心疾患のリスクファクターには、男性、高血圧、高脂血症、糖尿病、肥満、喫煙、運動不足などがあります。中でも、高脂血症、高血圧、糖尿病、喫煙は四大危険因子 とされています。これも生活習慣病の1つですから、上島教授は「心臓病予防のポイントは高血圧。そして禁煙と食生活の改善が大切です」と指摘しています。
高血圧対策としては、まず食事の中の塩分を減らすことです。とくに外食の場合は注意が必要です。健康日本21では、正常血圧の人なら一日の摂取量を10グラム以下にが、2010年までの目標となっています。そしてカリウムを含む緑黄色野菜(ほうれん草、小松菜、ニンジン、カボチャ、ブロッコリーなど)や果物(リンゴ、メロン、ブドウ、バナナ、アンズなど)をよく食べることです。カリウムは、塩の主成分であるナトリウムと、お互いに作用しあいながら働くことで、ひとつひとつの細胞が正常に働くという、重要な役割をしています。「高血圧」の人の場合、カリウムを十分に取っていると、余分なナトリウムの排泄を促進して、血圧を下げる働きがあります。ですから、野菜や、果物を毎日食べて、血圧を下げる働きのあるカリウムを多く取るようにします。ただし、腎臓の悪い人はカリウムを制限しなければなりませんので注意しましょう。
また、適正体重(BMI=体重を身長の二乗で割った値、kg/平方メートル=で25未満、18.5以上が適正体重とされています)を維持することです。毎日運動することも重要で、一日30分くらい軽く汗をかく程度の運動が推奨されています。とは言っても、毎日、ジョギングや水泳というわけにはなかなかいかないので、通勤などの機会を利用して一日1万歩を目標に歩きます。例えば3階ぐらいは階段を使う、通勤電車は1駅手前で降りて歩く、昼食は少し遠いレストランに出かける、近所の移動には車を利用しないなど生活の中でできるだけ歩くように心がけることです。なお、健康日本21の目標は、男性で9,200歩以上、女性では8,300歩以上となっています。
喫煙は心臓病のリスクを高めます。上島教授は「タバコを毎日2箱以上吸う男性は、吸わない人の4倍くらい心筋梗塞になりやすいのですが、禁煙すると2、3年でリスクが非喫煙者のレベルまで下がります。一方、肺がんでは禁煙効果が出るのに10年くらいかかります」と、禁煙の心臓病予防効果の大きさを説明します。 |